コラム

職場の強みとなる"5S"の考え方(後編)

2017年5月17日
中小企業診断士 河合初雄

 前編では、5S導入にあたっての考え方を説明しました。
 後編では、整理・整頓・清掃のポイントを説明していきます。
 「5S」スタートアップに際しては、まず(1)整理から(3)清掃までの「3S」を徹底的に行います。 「5S」の行き渡った職場を作りあげたい場合、最初に共通の目的、方法、基準及び責任者と実施時期に沿った「3S」が行える状態を築きます。 その結果、必要なものだけになり、道具が取り出しやすく、しかもきれいな職場となります。
 ここまでが完了したら、いかにこの状態を維持するのかを考える次段階が、清潔と躾ということになります。ですから「3S」導入の成否が「5S」全体の成否につながるといっても過言ではありません。
 ですから、後編では「3S」のそれぞれの要素を取り上げて、ポイントを説明していきたいと思います。

(1)整理(不要なものを処分すること)
 職場全体を代表する1エリアを選択し、そのエリア内を「モデル」として徹底して整理を行い、全体に展開することがポイントです。 なぜならば、整理は基準の固まらない初期の段階から職場全体で整理を行おうとすると、整理において重要な「処分する」ということが進みにくくなる傾向にあるからです。
 なお、要不要や、処分をする判断の基準として、「入手しやすさ」と「使用頻度」の2つの観点から、決定する考え方があります。  判断が迷うものについては、一カ所に集めておいて、責任者の判断に委ねることが一般的です。
 この段階で、いかに必要なものを選別し、不要なものを処分できるかが重要なのです。不要品の選別が甘くなれば、ものの総量が十分には減らせず、5Sで得られる効果がとても小さくなってしまいます。 そのため、導入期においては、処分するものの判断が容易な箇所から整理を始め、慣れてから全体に展開していく方法が有効です。 手しやすさと使用頻度から整理基準を定め、定めた通りに思い切って捨てる決断をすることが「3S」成功のカギとなります。

【整理はモデル区画から始める】


(2)整頓(一目でわかるようにすること、取出し・片付けがしやすいようにすること)
 片付けやすい置場を定める事が重要です。片付けやすい置場とは、「使う場所と近接」かつ「適切な高さ」に設定された位置をいいます。
 「使う場所と近接」とは、例えば、金型を取り付けるために使用するレンチとそのレンチを置く場所は近くにするといったことをいいます。 離れた場所に置場を設定してしまえば、片付けが日々の作業の中で次第に面倒くさくなり、置場が使われなくなってしまうことにつながります。
 「適切な高さ」とは、使用頻度の高いものほど、作業者にとって出し入れしやすい高さに優先して置くことを意味します。 例えば、金型の段取り替え頻度が多く、レンチの使用頻度が高い場合、レンチの置場は楽に出し入れできる高さに置くと定位置として扱われやすくなるでしょう。
 置場の位置と高さが決まれば、あとは「片付けやすさ」に重点を置き「出し入れしやすさ」を意識した物の置き方を考えます。 基本的な考え方は、床にものを置かないこと。置くならばキャスターを付けて移動しやすくすること。積み重ねる置き方はさけること(吊る、並べる、差し込む)などがあげられます。

【片付けやすい置場を定める】


(3)清掃(必要なものをきれいにする)
 清掃を考える上で最重要となるのは、使用可能な清掃道具を用意し、扉がなく使い勝手のいい道具置場を設置することです。
 工場などの通常はお客様の訪問がないことを前提として職場では、掃除道具が丸見えとなっていることによって清掃道具自体がきれいに保たれやすく、 現場の使い勝手の観点からも合理的であるといえるでしょう。
【清掃道具の置場が重要】


 次に、作業の動線を考慮することで、「ついでに」清掃を行える、チリの処理が行える、といった清掃をスムーズに行える「流れ」を作り出すことで、 清掃の効率を高めることや、油や粉塵の発生源に、あらかじめカバーや囲いを付けることなど、汚れの発生源対策と拡散防止策を打ち、汚れにくくする工夫も考えるべきでしょう。
 このように清掃では、清掃しやすさと汚れにくさの両立を図り、日々改善を繰り返すことが肝要です。 汚れが少なく固着していない段階でこまめに清掃するクセを付けることで、清掃の負荷は格段に低減します。

 冒頭にお伝えした通り、「5S」を確立するためには、最初に共通の目的、方法、基準及び責任者と実施時期に沿った「3S」が行える状態を確立することに注力します。 いわゆる大掃除を無くし、こまめに「3S」を行う仕組みを取り入れることが理想的です。
 3Sをものにしてから、残りの「清潔」、「躾」による維持を考える段階に移ります。
 「清潔」とは、「3S」の完成状態を、できる限り長く維持する工夫を行うことをいいます。
 「躾」とは、現場全体にいいクセを付けるための仕組み作りを行うことをいいます。
 「清潔」「躾」の段階まで至れば、「5S」導入時に定めた目的に沿って自律して改善が進む職場となっているでしょう。「自社独自の5S」が強みであると誇れる職場です。

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