コラム

タイ便り(2) 異文化への敬意と関心

2017年8月30日
中小企業診断士 河合初雄

 私の住まいの最寄駅であるオンヌット駅から徒歩10分くらいの場所に、バンコクでは有名な焼肉店「Best Beef」があります。 2時間の肉、海鮮、野菜の食べ放題、飲み放題で、449バーツ(日本円で約1350円)です。
 2008年にオープンして以来、バンコクで大人気のお店です。100名は余裕で収容できるかと思われる大型の店舗で、とても目立つ外観をしています。 私もタイに赴任して初めてお店の前を通り過ぎて以来、気になっていました。

 そこで週末に一人、「Best Beef」さんを訪れてみました。私が入口で受け取った整理券を見ると72番でした。電光掲示板によると30番あたりまで入店しているようです。 時刻は午後7時ごろ、どれくらい待てば順番が来ることやら…。
屋外で暑い中、長時間の順番待ちをするのは辛いかなとも思いましたが、日中より涼しくなっていたこともあり、同じように順番待ちをしている多くの方を観察しながら順番を待つことにしました。
 見渡しますと、顧客の9割以上は現地の方と見受けられます。3人組,4人組のお客様が多く、ご家族、同僚、友人、コンパなど、様々なグループがいるようです。 お店の前で順番待ちの30組100名以上の方々が歓談しているのはそれだけで壮観です。
 ご家族連れでは、老齢のお母さんと娘さんのペアが多く見受けられました。タイではスーパーや駅などあらゆる場所でこの組み合わせをよく見かけます。 一般にタイでは娘さんがご家族を背負って立つという社会であるといわれており、こうした光景はその証左なのでしょう。 こうした「タイ社会の文化」を、尊重して会社運営の仕組みの中に組み込むことができれば、事業の成果を高める上でのポイントとなるかも知れません。
 50分ほど経ち、ようやく入店できることとなりました。表示や呼び出しはもちろん、メニュー等に至るまで、全てタイ語で書かれています。  ただしメニューだけは、中国語と英語、日本語の訳が付いていたため、不都合なく注文することができ、豪華な夕食にありつくことができました。
 店全体は、屋外でバーベキューをするときの施設のように巨大な屋根のみの構造でしたので、店内外の様子が一望できます。店内の活気に満ちた現地の方を観察しながら、焼肉を食べていました。

 オーダーの際に何とか店員さんに伝えようと、拙いタイ語とジェスチャーで頑張っておりましたら、隣席のタイの方に「あなた、何人?」と話かけられました。 タイ語で聞かれましたので、何とかタイ語で「私は日本人です」と回答しようと思ったら、向かいに日本語が話せる方がいて、難なく伝えられました。 彼らは日本語が話せる友人がいるから、気軽に声をかけられたのでしょう。
 大学院生4名と日系の工場に勤務されている方が2名の6人グループで、日本語が分かる方は日本に2年間留学した経験がある方とのことでした。
 日本語が流暢な彼は、日系企業でエンジニアとして働きたいと希望しているとのことでした。 私自身が製造業支援をフィールドにしているので、彼らの「考え方」に興味が湧き、色々と聞いてみることにしました。
 日系企業を求める理由については、「給料が高い」そして「日本語が話せると管理職がめざせる」からだそうです。 キャリアとして転職も有利になり、「稼ぐ力」がとても増すのだそうです。
 日系の工場で勤務されている方の一人が「日本企業には俺らの気持ちを知ろうとしないボスがいて腹が立つ!」と突然憤りました。 詳しくお聞きしてみると「ボス」は、家族よりも仕事を大事にするタイプで、価値観も合わないことからも、気に入らないとのことでした。 この「ボス」とは、日本人の管理者のことを指しているようで、彼らへの歩み寄りの姿勢が見えないことからも「もう辞めてやる!」とまで言っていました。
 なお、彼の働く工場は著名な大企業でした。そこで「ボス」と言われる日本人の方は数名で、残りの数百名は、現地の方のはずです。 つまり、彼らは「ボス」と呼ばれる人たちと日常的に接しているわけではないものの、リーダーを通したやり取りの中でそういった感情を頂いてしまっているようでした。
 私には、その職場の実情は分かりませんが、この意見に他の方達も概ね同意されており、「家族」優先という考え方は、友人たちの中でも共有されているようでした。 彼らは、家族と過ごすための「時間」を大切にするという観点から、時間当たりに換算して、いかに「稼ぐか」ということが重要なのだそうです。
 私が「どういう企業だったら10年間働き続けられる?」と尋ねてみますと、
「”気持ち”を分かってくれる上司がいて、かつ残業・休日出勤がないこと。」これが満たされれば、給料は、二の次なのだそうです。
 この会話から分かったのは、タイの現地法人の従業員の方は実際に日本人管理者(=ボス)と直接対面する機会は多くなく、 現地スタッフのリーダーを通したやり取りの中で「ボス観」を形成してしまっているということです。
 すなわち、タイ人の方が一般に日本人に対して抱く悪いイメージの方がそのまま「ボス」の評価になってしまい、 困り事の隠れた原因となってしまっている企業が多いのではないでしょうか。

 中小規模の事業所では、意識して「ボス」が末端の従業員の方にまで声をかけ、彼らの意見を聞くことを習慣化する、 そして、文化や価値観を理解した上で運営の仕組みを作り上げる。これだけのことで、従業員の定着率を高めることができるのかもしれません。
 盤谷商工会議所の会員企業で総従業員数300名以下、つまり日本でいう中小企業の規模感の企業では、日本人従業者数の平均は2.7人、 同じく、総従業員数の平均は39人(盤谷日本人商工会議所(※)『2016年度版 会員名簿』より)であることからも、決して困難なことではないと考えます。
 弊社では、貴社の進出支援、運営支援を行っております。タイ進出をご検討されている中小企業経営者様は、お気軽にお問合せ下さい。

※『盤谷(バンコク)日本人商工会議所』とは、1954年に発足した、日本とタイの両国間の商工業及び経済全般の促進、会員相互の交流・親睦、会員の商工業活動のための「相談、援助、便宜」の供与を目的とする団体です。会員企業数は、1,749名です。(2017年5月現在)

戻る