コラム

特許出願の良し悪し

2017年7月26日
中小企業診断士 伊藤邦宏

 前回のコラムにて中小企業の出願割合が14%であるということをお伝えしました。そもそもこれは割合としては高いのでしょうか?低いのでしょうか?

 特許を取得する主たる目的は売上につなげることですし、特許を取得するその費用も売上から捻出されるものとなりますので、ここではひとつの目安として大企業対中小企業の売上比率を見てみることにします。
 国内企業全体に占める中小企業の売上の合計額は約47%となっているので、売上比率から見ればもっと中小企業の出願割合が高くても良さそうな数字です。それではなぜ14%程度となっているのでしょうか?
 その理由について、私は大きく以下の3点になると考えています。
①出願から登録にかかる費用が高い
②特許の重要性をあまり認知していない
③そもそも特許は敷居が高いものと感じている
 ②と③に関しては前回のコラムで少し触れさせていただきましたので、今回は①について見てみましょう。
 特許はとにかくお金と時間がかかります。特許登録までの流れは「出願→審査請求→(審査が通れば)登録」となり、それぞれでお金がかかってきます。 特許の生存期間は20年となりますが、登録時は最初の3年分の登録料を支払い、4年目からは毎年更新で1年分の登録料を支払うことになります。 最安値のケースをご紹介いたします。出願から審査請求、3年分の登録費用で14万円強、それを20年間登録したまま維持するとさらに74万円ほどかかり、出願から20年間の維持で合計88万円強のお金が必要になります。 意外と安いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、あくまでも最安値でこの値段です。 出願に必要な出願書類を書くのも専門的な知識が必要となるため、弁理士に依頼するとなれば数十万円ほどの委託料がかかります。 請求項と呼ばれる権利範囲を記載した項目があります。請求項は1つでももちろん出願可能ですが、出願戦略によっては複数の請求項を記載して出願することがあります。 この請求項が多くなると20年間トータルでは数万円~数十万円の違いが出てきます。 いざ登録されたとしても、もちろん1件だけ特許を取得していれば良いというものでもないので何件も出すことになるとその分お金がかかってきます。という具合にどんどん費用が積み上がっていきます。

 そこまでしてもやはり特許を取得するメリットは大きいと思います。特に以下の2点が大きなメリットかと思います。
①自社の発明が守られる
②自社の技術力の証明になる
 ①は説明不要かと思います。模倣されることを防ぐことができます。付加価値の高い特許であれば差別化要因にもなります。
 ②は特許庁と言う公的機関に発明として認められた、言わばお墨付きの発明になります。場合によっては営業にも使えますし、同業他社に対する牽制にもなります。

 ただ、メリットだけを主張するのも良くないので、費用以外のデメリットも紹介しておきます。特許は出願するとその1年半後には必ず公開されます。 つまり、特許の登録有無に関わらず、自社の発明が世の中に公開されてしまうのです。そして特許の効力は20年間しかありません。 技術革新のスピードが速い業界であれば特許の有効期限が切れる前に新しい技術に移り変わるのであまり大きな影響はありませんが、 特許が切れた後も使い続けることができるような息の長い技術であれば特許切れの後は他社にも使われたい放題となってしまいます。 有名な話ですが、コカコーラ社はコカコーラの製造方法を公開するのを嫌って、特許は敢えて取得せず、秘密を守り抜いています。

 メリット・デメリットについて少しお話しましたが、もちろん一言に特許と言っても産業上の利用価値というものが異なります。
 どのような発明ならば価値が高いのか、どのような発明は持っていても「使えない特許」となってしまうのかといったところを見極めるにはある程度の経験が必要になることも確かです。
 そういった経験を積むという意味でも、まずは前回お勧めした他社権利調査から特許の世界に入っていくのもひとつの手かもしれませんね。


戻る