コラム

特許を身近なものに

2017年7月5日
中小企業診断士 伊藤邦宏

 特許庁の資料によると、2015年の国内出願件数は約26万件になります。このうち中小企業の出願割合は約14%になります。つまり年間3.6万件ほどが中小企業から出願されていることになります。 なお、出願とは文字通り「特許に登録してください」ということを願い出ることであり、審査通過後に特許登録となるので、上の数字は特許として登録されている件数ではありません。

 そもそも特許とはどういったものなのでしょうか?

 一言で申し上げると「発明を法律で守る」ということです。
 そして発明とは、発明者が抱えている課題に対して著しい効果を得ることができる解決策です。この課題とは、例えば製造方法であったり、生産性の向上であったり、顧客価値の向上であったり様々です。
 有名な特許として例を挙げるとすれば、後にノーベル賞を受賞した中村修二氏が原告となり2001年~2005年の間に争われた青色発光ダイオードの製造方法に関する特許が比較的記憶に新しいところかと思います。 本件に関して言えば、被告が原告に対して約8億円の支払いを命じられる結果となりました。 この場合は特許侵害という訳ではないので賠償金ではなく、和解金という名目ですが、それでも大企業同士の大きな特許訴訟となれば億単位のお金が動くことは珍しくはありません。

 ところで、「特許は製造業が取得するもの」と思っておられる方も多いのではないでしょうか?
 確かに技術開発の結果として特許を取得するというケースは多く見られます。しかしながら、そうでない場合もあります。 例えばディズニーランドのファストパスというシステムはディズニー社の特許になります。 内容としては「並ばずにアトラクションを利用することができるレーンを設け、そのレーンを特定の顧客が将来の割当時間にて利用する権利を与えるパスを発行するシステム」といった内容です。 実際にはもう少し細かい設定がもう少し難しい文言で書かれています。
 この特許のお陰でユニバーサルスタジオジャパンはファストパスと同等のものは実施できず、エクスプレスパスという少し内容を変えた(ディズニーの特許に抵触しない内容の)パスを発行しています。

 その他にも変わったもので「たこ焼き」というタイトルの特許があります。「たこ焼きは黄色がかった色に焦げ目とソースがかかって色彩性に乏しい見た目である」という課題に対して、 「桜海老の粉末を3~7重量%の割合で混入する」という解決策により、「綺麗なピンク色のファッション性に富んだものとなる」効果が得られるということが認められて特許になっています。
 こういった例を聞くと「あれ?うちのアレも特許性があるんじゃないだろうか?」という気持ちになってきませんか?まずは特許というものに対するイメージの敷居を下げていただけたなら幸いです。

 日本ではあまり聞きませんが、自社では実施しない特許の取得を行って、実施しそうな会社にライセンス料を要求する、もしくは実施している会社を相手に特許侵害訴訟を起こして収益を得ている会社もあります。 こういった会社に訴訟を起こされると非常に厄介です。通常、同業他社からの訴訟であれば、「おたくの特許を使っている代わりにうちの特許使ってもいいですよ」という、 いわゆるクロスライセンス契約に持ち込める可能性もありますが、特許の取得のみを行っているような会社であれば当然に「代わりに使ってもらううちの特許」というものが存在せず、 金銭での解決、もしくは販売停止をするしか選択肢はないのです。

 冒頭で紹介した特許庁の資料によれば、中小企業の出願割合を平成31年までに15%まで引き上げたい旨のことが書かれていますが、私はどちらかというと先述した訴訟などのリスクを考えると、 自社製品が他社の特許を使用したものでないこと、つまり他社の特許権を侵害しないことに注力すべきと考えています。 もちろん自社の発明を特許で守るということも必要ですが、特許出願、登録、維持にはお金がかかります。加えて、自社の特許を他社が侵害しているというのは当然ながら自分たちで見抜く必要があるため、 そちらにも人力を割く必要が出てきてしまいます。一方、他社権利を侵害した場合、恐らくタダでは済ませてもらえません。 そういった意味であくまでも「どちらかというと」ですが、他社権利侵害がないことに重きをおくべきと考えます。
 他社権利調査に関しては、自社でやらずとも外部委託することも可能です。東京では特許調査費用の助成金もあるようです。
 本コラムにて特許を身近なものと感じていただき、特許戦略も事業を進める上での1つの重要な位置付けと考えるきっかけとなっていただければ幸いです。


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